旅する蝶「アサギマダラ」が教えてくれたもの~11月27日レポート~
更新日:2021年11月27日
こんにちは、パパレポーターの久田です。
小学生の頃、図鑑で虫などを調べるのが好きだった私は、宗像市に飛来する渡りの蝶「アサギマダラ」のことを図鑑で知りました。
浅葱色(あさぎいろ)という美しい青緑色とマダラ模様が特徴のその蝶は、当時モンシロチョウやアゲハチョウしか知らなかった私には大きな発見でした。
それから約30年後の現在、アサギマダラの観察会が山田ホタルの里公園で開催されること、蝶の飛来地を作るために活動している小学生のことを知り、取材させてもらいました。
お話を伺ったのは
- 「宗像アサギマダラの会」代表の前田秀敏さん
- 「ロイヤルホテル宗像営業部」の松尾佳奈さん
- 「アサギマダラのかんなちゃん」こと新留かんなちゃんとお父さん
会長の前田さん・広報の大久保さん・副会長の土肥さん(左から)
松尾さん・新留かんなちゃん・お父さん(左から)
「渡りをする蝶」「奇跡の蝶」と呼ばれているアサギマダラについて、3つに分けて紹介します。
1:山田ホタルの里公園での観察会「アサギマダラを知る」
アサギマダラってどんな蝶?どこまで旅をするの?
10月9日、山田ホタルの里公園で「宗像アサギマダラの会」が主催する観察会に参加。
公園には以前息子と散歩で訪れたこともあり、敷地も広く自然がたくさんあるので走り回るにはとてもいい環境です。
自然を望む山田ホタルの里公園
息子と散歩するのも気持ちいい
市の花カノコユリも咲いていました
遊歩道が整備されていて歩きやすい
前日の10月8日の午前中に公園内で確認されたアサギマダラの数は11頭。
「宗像アサギマダラの会」代表・前田さんの知人宅(太宰府在住)では60頭、山口の方では96頭と多くの目撃情報がありました。
宗像をはじめ全国でアサギマダラの調査をしている仲間がいるので、蝶にマーキングすることで情報共有をしているそうです。
アサギマダラの生態。宗像には春と秋に飛来
捕獲した蝶にマーキングして移動距離などを調査
見つけた日付・場所などを明記します
公園内で見つけたアサギマダラの様子
アサギマダラは台湾や八重山・沖縄諸島から暑さを避けて東北・北海道まで北上します。
宗像には5月ごろ海岸部のスナビキソウに飛来し蜜を吸い北を目指します。
秋になると寒さを避けて南下を開始します、宗像には10月ごろに飛来し暖かい沖縄台湾へと移動します。
2021年山口県川棚から台湾へ32日間で1380キロメートル移動報告がありました。
5月頃はスナビキソウやスイゼンジナ、10月ごろにはフジバカマやヒヨドリバナの花を吸蜜。ホタルの里公園にも、美しいフジバカマが咲いています。
特にオスは、花から「ピロリジシン・アルカロイド」という毒性の成分を体の中に取り入れ、メスを呼び寄せるためフェロモンを出します。
オスの蝶はこれをエアーペンシルと呼ばれる器官で自身の羽に塗り、メスにアピール。
やがてオスとメスが出会い、交尾を終えたメスは「キジョラン」という植物に産卵します。
メスの蝶が産卵するキジョラン
自然の中で生きていく厳しさ
メスの蝶は一つの葉に一つの卵を産みつけ、卵から幼虫、さなぎを経て成虫になります。
それまでクモや鳥に食べられたり、ヤドリバエという寄生虫にやられたりと危険が絶えません。
教えてくれたのは、キジョランに産卵された卵を見つける名人である会員の土肥さん。
ヤドリバエも同じようにキジョランに卵を産みつけるため、誤ってアサギマダラの幼虫が葉っぱと一緒に食べてしまった場合、羽化する頃には体内から浸食されたヤドリバエが出てくるのだとか。
成虫になれるのは100頭に1頭のみ。
私たちの前を優雅に乱舞する蝶たちは、この厳しい生存競争を生き抜いてきたと言えます。
神秘的な羽化の様子
会員の大久保さんの自宅では、今年アサギマダラの羽化の様子が観察できたそうです。
- 羽化が近づくとさなぎは白っぽくなり、やがってパリッと音がしてマユが割れ始まる。
下から脚を出し、頭から降りてくる - そーっとそーっと降りてきて、まんまるのお腹がぷるんと出てくる。羽はしわくちゃだが、15分程でキレイになる
- ぷるんとしたお腹の中の体液は、羽の芯脈(しんみゃく)と呼ばれる線へシューっと送り込まれ、羽がしゅわーっと伸びていく。やがてお腹は細長くなる
あっという間なので目を離してしまわないよう、なんと3時間にらめっこしたそうです。
(写真提供:宗像アサギマダラの会)
福岡地区の山でもアサギマダラを発見!登山客も注目
会員の土肥さんによると、山にあるキジョランでも産卵し、そのまま冬を過ごすアサギマダラもいるようです。
今年は10月に城山で40頭、湯川山でも20頭程目撃され、登山客の間でも話題になっています。
SNSでも宗像各地で撮影されたアサギマダラの動画や写真等が次々に投稿されていました。
飛来する環境を整え、宗像全体でアサギマダラを迎える
アサギマダラはキジョランという植物にしか卵を産まないため、キジョランがなくなると絶滅してしまうと言われています。宗像アサギマダラの会でも、人間と自然のあり方を見直し、大切にしてほしいと活動の中でお伝えしています。
アサギマダラが吸蜜に訪れるフジバカマを植えたいという方には、苗の配布や育て方のフォローなども行なっていますよ。
公園内にあるフジバカマの原種
代表の前田さんは、蝶を自分たちだけのものにせず、いろいろなところで「見たよ!」と報告されると嬉しいと話します。
この日の観察会には福岡市東区から女性の団体客も来ていて、「勉強させて頂いて感謝している。特にオスとメスの見分け方、蝶のマーキング調査について知ることができた。今後も蝶が増えていってほしい」と話していました。
私も撮影にチャレンジしたところ、2頭のアサギマダラを撮影できました。
オスとメスの見分け方も教えてもらい、羽の下に黒い模様があるのがオスだそうです。
みなさんも見かけた際は、ぜひどちらか確かめてみてくださいね。
また、宗像ユリックス図書館では10月に書籍や写真などの展示を開催。学んだことを活かしてクイズに挑戦したところ、見事正解してアサギマダラのしおりをゲットすることができました!
2頭のアサギマダラを確認
上手く撮影できた1枚。羽を広げた姿が美しい
問:オスかメスか分かるかな?
図書館内のアサギマダラ展
クイズに正解してしおりをもらいました
- 上記の問いの答え:オス
2:小学生とロイヤルホテル宗像の共創地「かんなちゃんの花園と活動の様子」
観察会を後にして、ロイヤルホテル宗像へ。
ここでは小学校6年生の新留かんなちゃんが、アサギマダラの飛来地として花園を世話しているそうです。
「なぜ一人の小学生が世話をしているのか?その原動力は何なのか?」という答えを探るべく、かんなちゃんとお父さん、そしてロイヤルホテル宗像のスタッフ・松尾さんに話を伺いました。
ロイヤルホテル宗像
花園へ看板が案内してくれます
花園前の説明板で蝶の生態を学べます
アサギマダラとの出会い、探索へ
アサギマダラの出会いは6年前の平成27年。かんなちゃんが5歳の時でした
お父さんの知り合いの方から「アサギマダラという渡りをする蝶が年に2回、大分の姫島に来るから見てみたら?」という話を聞かせてもらったことがきっかけです。
早速2人は午前3時半頃に家を出発し、雨が降り注ぐ中、4時間弱かけて姫島へ向かいました。
姫島で蝶の世話をしている方と出会い、1頭を手のひらへ乗せてもらったかんなちゃん。死んだふりをする蝶の姿に他の子供たちも心配そうに見ています。
ポンッと下から手の甲を叩くと蝶はフワーと飛び立っていき、その光景に感銘を受けたかんなちゃんは、その後も4回程親子で島を訪れたそうです。
近くで見られる所はないの?市役所にたずねてみました
かんなちゃんがアサギマダラに出会った翌年、「近くで見られる場所ないか?」と宗像市役所にたずねてみました。
宗像では「宗像アサギマダラの会」が発足し、ホタルの里公園でフジバカマを植える運用を始めたとのこと。
また、宗像市江口の海岸に天然の「スナビキソウ」があり、蝶が訪れるという情報も教えてもらいました。
県内では他に岡垣町の吉木浜、北九州市若松区の岩屋海岸にも「スナビキソウ」があると分かりましたが、多くの都道府県で絶滅危惧種に指定されていて、とても貴重な存在だそうです。
「スナビキソウ」を求めて、いざ吉木浜へ
小学校2年生にあがり、かんなちゃんとお父さんはスナビキソウを訪れるアサギマダラの姿を求めて、芦屋から岡垣間のサイクリングロードを2時間かけて吉木浜を探索。
なかなか見つからない中、諦めて帰ろうとしたその時、目の前に1頭のアサギマダラが現れ、スナビキソウが江口浜より広範囲に生えているではありませんか。
その様子を見て、かんなちゃんのアサギマダラに対する想いに一気に火がつきました。
花壇存続のピンチ!諦めたくない!!
自身の小学校でフジバカマを栽培
それからアサギマダラに来てもらうため、かんなちゃんは自分の通う小学校にお願いし、敷地内で8畳程の花壇にフジバカマを植えました。
しかし、その年(2018年)の目撃情報は0頭。
蝶が飛来するには、いろいろな条件を満たさないといけないようです。
花壇には使用期限があり、翌年にはテニスコートサイズまで花壇を広げました。
夏場は暑いため、かんなちゃんは朝5時半頃からもくもくと草を抜き、水まきをします。
水まきだけでも1時間はかかり、草は抜いても抜いても別の場所から生えてくるため、かなりの重労働です。
花壇の使用期限が迫り、お父さんが「ここではもう終わりかもしれないよ」と伝えるも、「諦めたくない!」と言うかんなちゃん。
その言葉には「アサギマダラをみんなに知ってほしい」「学校のみんなにも見せてあげたい」という熱い想いが込められていました。
花壇の使用期限が迫る中、かんなちゃん親子の行く末は?
その想いに応えようと、お父さんも花壇を移せる場所を探し続けました。
さまざまな企業や施設10数件に問い合わせるも断られる中、最後に残ったのはロイヤルホテル宗像。
スタッフの方から「いいことされますね。こどもたちのためにいいですね」と言われ、社内で情報を共有してもらいました。
かんなちゃん親子の閉じられていた扉が、ぼーん!と開かれた瞬間でした。
花壇をホテルへ移設。花園で想いは広がる
第2のチャンス!ロイヤルホテルでアサギマダラを待つ
ロイヤルホテル宗像に行き、松尾さんと対面したかんなちゃん親子。
松尾さんの「話は聞いています。こどもたちのために当ホテルとしても協力させて頂きます!」という温かい言葉に大喜びです。
その年の11月、フジバカマを植えたプランター17個を移動させると、10月中旬のピークが過ぎているにも関わらず、さっそく2頭のアサギマダラが姿を現しました。
ホテルは周囲の森が西風を防いでくれ、芝生や水場(プール)もあるため、蝶が飛来しやすい条件が揃っていたのです。
ホテルなので駐車場やトイレも完備され、多くの人が蝶を見に訪れる条件も十分。2人にとってまさに理想の場所でした。
開始時には1区画だった花園も、ホテル側の厚意で4区画まで拡大。プランターの分も合わせて、アサギマダラが好んで吸蜜する「スイゼンジナ」「シナワスレナグサ」「フジバカマ」を育てます。
最初は1区画の花園から始まりました
育てているスイゼンジナ
翌年には8頭のアサギマダラが飛来し、今年2021年に取材した10月9日には、なんと30頭も観察できたそうです。
今では、ホテル敷地内の花園でアサギマダラを見るため、各地から人が訪れます。
福岡市から来た女性は、「約50年振りにアサギマダラが見れました。ありがとう」と大喜び。
福岡市の梅林地区や織幡神社にも、「スイゼンジナ」の苗を分けたりしています。
ホームページやパンフレットを作成してアサギマダラを発信
現在、かんなちゃんは土日の午前5時半頃から水やりを始め、栄養剤をポンプに何度も入れ替えて散布しています。
「アサギマダラロードマップ」や「旅する蝶アサギマダラ」というパンフレットを作成したり、「あそびながらくらぶ」HPでは、花園や蝶の様子を動画にして掲載したりと、世界に向けて積極的に発信しています。
かんなちゃんの原動力には、「みんなで協力するのが楽しい、みんなでやるから楽しい」という想いがあります。
自分と同じ小学生の子たちにもパンフレットを見てもらいたいと、無償で小学校や市役所へデータを提供。実際にパンフレットを見て訪れてくれた方もいるそうです。
手作りのロードマップ
みんなに見てほしいパンフレット
花壇を案内してもらいました
取材のために花壇を案内してもらうとアサギマダラが6頭ほど飛来しており、フジバカマの蜜を吸っていました。
かんなちゃんの育てたフジバカマを吸蜜している
遠くから飛んできたのか、羽には少し欠けている部分も
飛来したアサギマダラは風の中でも力強く舞い、必死に吸蜜を繰り返します。
かんなちゃんの周りを飛び回り、そっと差し出した指にとまる様子は、心が通じ合っているように思えました。
(私も真似してみたところ、残念ながら乗ってくれませんでした)
かんなちゃんの指にとまるアサギマダラ
半透明の羽が美しい
3:蝶と一緒に人々の想いも旅をする
一日アサギマダラを取材して感じたことは、「蝶だけが旅をするのではなく、アサギマダラを想う人々の心も一緒に旅をしている」ということ。
宗像には、アサギマダラを迎える旗を打ち立て、人数こそまだ少ないものの、賛同する人々が集まっています。
小さな渦がやがて大きな渦になっていくように、蝶も人もまた旅の途中なのだと感じました。
かんなちゃんの旅もまだまだ続く
来年、中学生になるかんなちゃんは「今後は、まだまだたくさんの人にアサギマダラを知ってほしい。花とアサギマダラを含めて、自然を大切にしてほしい」と情熱を燃やしています。
見に訪れる方は、ぜひマナーを守って鑑賞をお楽しみください。
(レポートは原文のままで掲載しています)
関連サイト
山田ホタルの里公園
ロイヤルホテル宗像(外部サイトへリンク)
あそびながらくらぶ(外部サイトへリンク)
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