田熊山笠と東郷小学校「自主性と人間関係をはぐくむ地域学習」~8月31日レポート~
更新日:2024年8月31日
こんにちは、Satomiママレポーターです。
7月は山笠の季節。疫病退散を祈願して行われます。
博多祇園山笠は全国的にも有名ですが、宗像にも4つの山笠があることをご存じですか?
田熊、鐘崎、地島、大島の4地区で保存会をつくり、地域住民や地区内の小学校も一丸となって伝統を引き継いでいます。
今回はその中でも、田熊山笠と東郷小学校について取材してきました。
田熊山笠とは
田熊山笠の沿革自体は定かでなく、古いところでは昭和12年(1937年)の新聞に十数年ぶりの復活に関して記載があるものの、その後も中止や復活を繰り返し、現在の田熊山笠が復活したのは、平成4年(1992年)のことだそうです。
その後、平成23年度(2011年度)からは同地区内にある東郷小学校で、田熊山笠を学校行事として山笠授業などを開催し、地域学習として取り組むようになりました。
現在は5月中旬頃から7月の追い山まで、週に2、3時間程度の授業が行われています。
田熊山笠の衣装に身を包む東郷小の児童たち
お客さんではない!主体的に参加する子どもたち
小学校での山笠授業にも出向かれるという、田熊山笠振興会副総代の吉田剛さんにお話を伺いました。
田熊山笠振興会副総代・吉田剛さん
授業の目的として「祭りを主体的に動かすこと」を挙げられ、「どういう山笠をしたいのか、なぜ山笠をするのか、答えは一つではないが、それぞれが考える」「子どもたちを含めた全員が仲間であり、全員がそれぞれの役割を果たすことで、祭りが成立していることを知ってほしい」と話していました。
この日は山笠の命ともいえる舁き棒を洗う『棒洗い』が行われていて、吉田さんの言葉通り、自主的に集まってくれたという東郷小学校の児童たちが一心に棒を磨いていました。
田熊山笠詰所(お弁当屋「仕出しふか田」裏)
棒洗いをする東郷小学校の児童たち
きれいに洗われた舁き棒
全校挙げて取り組む一大行事
東郷小学校では、全校を挙げて山笠授業に取り組んでいます。
低学年では「応援」がテーマで、学年が上がるにつれて「発信」を計画的に行うなど、レベルが上がっていきます。
東郷小学校各学年の山笠への関り
- 1年生:うちわを作成し、田熊山笠を応援する
- 2年生:ダンボールで山笠を作り、校内を盛り上げる
- 3年生:のぼりを作成し、いせきんぐ宗像に掲げる
- 4年生:3年生の秋から育てた麦で、てっぽう(山笠の指揮棒)や麦茶を作る
- 5年生:PRポスターの作成、舁き手のお守りを作る、舁き手募集の発信、追い山当日の先走り(山笠の先導)
- 6年生:市役所や東郷駅など市内にポスターを掲示、舁き手募集のチラシの作成、追い山当日の先走り、子ども山笠を走らせる
(参考:宗像市報道資料)
学びを児童自身が作る、自主性に任せた授業
ここで俄然、山笠授業を受けている東郷小学校の児童たちのお話を聞きたくなってきました!
取材の打診をしたところ快く了承してくださり、6年生の代表の皆さんに話を聞かせてもらいました。
6年生は、自分たちで役割分担を考え、3つのグループに分かれて活動しているということでした。
盛り上げ隊(当日の盛り上げを主目的に活動)
旗を作ったり、子ども山笠の布に絵を描いたりといった、当日盛り上げるための事前準備も行う
伝え隊(山笠の歴史について伝える)
舁き手の募集、校内で他学年に山笠のことを伝える(1年生には、ひらがなで文字を大きくしたスライドにしたり、クイズ形式にしたり、学年に合わせて分かりやすいように、自分たちで工夫を加えている)、他校(令和6年時点:南郷小、河東西小、日の里西小、中央中)にオンラインを利用して伝える。宗像高校や福岡教育大学でポスター掲示をして伝える。
有名にし隊(田熊山笠の宣伝)
2つにチーム分けをして宣伝を行う。
- 宗像市チーム:チラシ、ポスター、サイト作成
- 他校チーム:伝え隊の小学校チームと協力して、舁き手募集のスライドをオンラインで他校(上記3校)にお知らせ
児童たちの作成したポスター(イオンモール福津)
6年生の声
- 地域みんなで応援しており、地域が一体となって盛り上がるので、ぜひ見に来てほしい
- 盛り上げ隊は「最高の盛り上がり」を目指しているので、見に来てほしい
- 東郷小学校の児童も、見に来た人も、みんなで「オイサ!」の掛け声をかけるので、迫力があります
- 舁き手を広く募集しているので、たくさんの人に参加してもらえるし、仲も深まります
- 本来の山笠の目的である地域の「疫病退散」に対して、東郷小学校の児童も地域と一体になって頑張っています!
- 今年は東郷小学校の校庭に山笠が入ってくるとき、3台の山笠(2年生山笠、6年生の子供山笠、大人山笠)が集合することを計画しているので、田熊山笠史上最初で最高の取り組みになるはず!博多祇園山笠にも負けないぞ!(残念なことに雨のため叶いませんでした)
- 頑張ってきたことを記事にしてもらえて、みんなに知ってもらえることがうれしいです
山笠授業を通して得られたもの
6年生の皆さんのお話から、自分たちの活動への自信や誇りが感じられました。
担任の先生方もおっしゃっていましたが、学びの姿勢や、柔軟な発想(事務室前のペッパーくんにも祝いめでたを歌ってもらうというのは柔軟性の最たるものかと)で物事成し遂げていく姿には目を見張るものがありました。
この時期にここまで自主性に任せた活動を行えるというのは、子どもたちだけではなく、周囲の大人にとっても大切な経験になると思います。
また、上級生の活動を見て来年の自分たちの姿に思いを馳せたり、休日に外に出る機会が増えたり、山笠振興会の方々と活動したり、同じ活動グループの友だちと熱意を共有できて話題が増えたりと、人との関わりが増え、地域を盛り上げる活動の輪の中にいることを実感できている様子でした。
皆さん、今後も何らかの形で山笠に関わっていきたいと思っているそうです。
6年生代表の皆さん
しっかり回答内容を考えてきてくれていました
さらに、これは先生からのお話ですが、市内の大学や宗像高校などにポスターを貼らせてもらいに行った際、どこでも応援の声をかけてもらえたそう。
「長年取り組んできた成果だと思うので、周囲の応援の声を、児童たちにも知ってほしい」ということでした。
そして、「単純に山笠が盛り上がればいいということだけではなく、1つのことを成すためにはたくさんの人が関わっていること、そしてそれぞれがやりたい役割をできるとは限らないけれど、どの役割も必要なものであり、それぞれが存在することによって物事は成り立つのだということを学んでほしい」というのが先生方の山笠授業を通しての願いです。
副総代吉田さんも同様のことをおっしゃっていましたが、しっかり児童さんたちの心にも刻まれていると思います。
あいにくの雨、その中でも響き渡った「オイサ!」の声
7月14日の日曜日に追い山が行われました。
警報も出るような大雨の中でしたが、山笠の舁き手の皆さんや、東郷小学校の児童たちと見物客たちの「オイサ!」の声は響き渡り、田熊山笠と子ども山笠がそろって清道参りをすることができました。
本来はこのあとも行程があるのですが、今回は大雨の影響で中止に。
それでも、場の空気は清々しく、会場を去る際には誰もが笑顔でした。
東郷小学校児童の待つ運動場
雨の中の追い山
子ども山笠も清道参り
(写真提供:むなかた魅力発信アンバサダー・アリフォト様【Instagramアカウント@a_ri_photograph】)
この先も続けていくために
田熊山笠に限らず、市内いずれの山笠でも舁き手不足の問題が常に付きまとっています。
田熊山笠では、地域の人に限定せず広く舁き手を募集しており、事前に大人向けにも山笠教室を開催するなど、伝統の存続のために様々な策が講じられています。
今回の取材で、山笠というものがただのお祭り、楽しいイベントというだけではないことに気が付きました。
伝統を受け継いでいこうとするこの活動は、ただ古臭いものをそのまま保存しようとする取り組みではありません。
そこに関わる人々の間に温かな絆を育み、年を重ねるごとにその絆をより強固なものとし、さらには後に続く世代を育てるという、大きな役割を担っています。
人間関係が希薄になりつつある現代において、孤独は常に大きな問題ですが、置き去りにされがちな伝統の中に、その解決策の一端が見つかりそうな気がしました。
(表記はレポーターの表現を優先しています)
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