漂着物から学ぶアジアの文化・環境展 最終更新日:2024年6月28日 (ID:3058) 印刷 漂着物から学ぶアジアの文化・環境展 宗像地域の海辺に寄せられた漂着物や貝殻を通し「世界遺産CITY 宗像」の海の現状や課題を提示し、環境保全の大切さを発信する夏の企画展です。 【会期】令和6年7月2日(火曜日)から9月1日(日曜日)まで【会場】海の道むなかた館特別展示室ほか【入場料】無料【展示】第1部:玄界灘のおもしろ漂着物(文化資料編)第2部:玄界灘のおもしろ漂着物(自然資料編)【海の道むなかた館】https://searoad.city.munakata.lg.jp むなかた「水と緑の会」の紹介 漂着物のパイオニア・石井忠さんの著書紹介 企画展解説 世界文化遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群は、東アジアとの交流を示す出土品の考古学的価値と、古代祭祀遺跡が残る沖ノ島、そして現在まで続く宗像三女神信仰の一体的な価値が高く評価されました。この交流の舞台となったのが、玄界灘。玄界灘を経由し、人やモノ、文化が往来しています。海を通じて往来したのは、これだけではありません。宗像の浜辺に寄せられる漂着物や貝もその一つです。今回の企画展では、宗像地域の海辺で採集された自然物や人工物の展示を通し、宗像の海の現状や課題を提示し、環境保全の大切さを発信します。 顔見知りの漂着物を増やして海辺で再会してみませんか 今回の企画展は「海の道むなかた館」と「九州大学」との協働で開催しています。企画展の概要を九州大学大学院工学研究院· テクニカルスタッフの木下英生(きのした· ひでお)さんが紹介します。九州大学大学院工学研究院環境社会部門生態工学研究室と市との協働で令和2年度(2020)から令和4年度(2022)までの3カ年「宗像市海岸漂着ごみ等組成調査」を実施。令和5年度(2023)は、これらの調査結果をまとめ「宗像・玄界灘の漂着物の世界展」を開催しました。今回の展覧会は、その続編です。展示は2部構成になっています。沖ノ島に寄せられた漂着物の調査結果を軸に漂着物(人工物)の背景や海流・季節風などを探る「文化資料編」と宗像地域やその周辺で採取された貝殻や木の実の素性をたどる「自然資料編」です。 「文化資料編」では、沖ノ島の調査や宗像近郊の浜で採取したシードール(人形)、陶磁器片、中国語や韓国語など異国の言語が書かれた容器などを展示。珍品としては、沖ノ島の漂着物から見つけた「海標器」と「チャンギ(韓国将棋)の駒」があります。「海標器(石けんが入ったプラスチック容器)」は、1990 年代、台湾が裕福であることを中国本土にアピールするため台湾から流されたもの。30年ほどかけ、1400キロの旅をし、沖ノ島に漂着しています。「チャンギ(韓国将棋)の駒」は7種32 駒ありますが、沖ノ島からは「象(行書体)」と書かれた駒が1個見つかっています。漂着ごみは海洋汚濁の元凶ですが、中には貴重な文化史料となるものもあります。「自然資料編」では、福津市勝浦浜で福津市在住の花田英司(はなだ· えいじ)さんが1990年代から2000年にかけて採取し、市に寄託された貝殻を中心に展示。寄託された貝殻は1万点を優に超え、その種類は300以上。玄界灘特有のものから南方から漂着したものまでさまざま。今回は、この貴重なコレクションの一部を使い、貝の分類法や進化の過程、成長過程を説明。このほか、ブルーカーボンの課題に取り組む藻場再生事業や環境保全に取り組む市民団体の活動なども紹介します。無数の漂着物の中で、名前や由来を知っているものに出会った時、群衆の中で知り合いに出会った時に似た「ほっとした」感情を抱きます。宗像地区の浜辺には、対馬海流に乗って南西から運ばれたものや、冬の北西風に吹かれ流れ着いた中国や朝鮮半島のものまで、多種多様なものが寄せられるビーチコーミングの適所。この企画展を通して、漂着物の「顔見知り」を増やし、海岸清掃や磯遊びの際に楽しい再会をしてください。市と九州大学が協働で行った「宗像市海岸漂着ごみ等組成調査」の報告書は下記から読むことができます。 URL 令和3年度報告書(PDF:10.24メガバイト) 令和4年度報告書(PDF:20.89メガバイト) 令和5年度報告書(PDF:12.18メガバイト) 宗像近郊の浜で採取されたシードール(人形)チャンギ(韓国将棋)の駒台湾が中国本土に向け流した海標器 究極のSDGs 貝殻アート大島産のアワビが龍に変身 ボトルシップ・貝細工工房かんす・沖西牛男さん 「大島にドラゴンボールのシェンロンがおるげな。一つだけ願い事をかなえてくれるらしいバイ」と噂が広まっています。果たして、シェンロンはどこに?大島港渡船ターミナルから東に10分ほど歩くと「かんす海水浴場」に到着します。噂のシェンロンがいるのは、この海水浴場の向かいにある「ボトルシップ· 貝細工工房かんす」。工房奥の黒カーテンの後ろに身を潜めています。シェンロンの生みの親は、工房の主で制作者でもある沖西牛男(おきにし· うしお)さん。工房では牛男さんと、その父· 沖西保幸(やすゆき)さんの貝細工や牛男さんのボトルシップが観賞できます。貝細工での親子共通の題材は「龍」。保幸さんは日本各地の多様な貝を使い造形。一方、牛男さんは大島の海士(あま)が獲り、大島の民宿で供したアワビの貝殻を主体に創作。親子ともに漁師。貝細工は双方とも独学で身に付けた技芸。「私が貝細工を始めたのは、父親が亡くなって15年ほど経ってから。父から手ほどきをうけたことはありません」と牛男さん。工房内では、アワビの貝殻で使った、ハートや勾玉(まがたま)形などのアクセサリーも販売しています。シェンロンは写真嫌い。会いたい方は大島へ。 沖西牛男さん作「黄金龍」 アワビの貝殻を切断、研磨し作られた龍のウロコとなる部材龍のヒゲとなる部材もアワビの貝殻制作途中の龍の尾 豊かな自然を次世代につなぐ 市内の河川や道路、海岸などの清掃活動や保全活動に数多くの市民団体や企業が取り組んでいます。むなかた「水と緑の会」もその一つです。同会のメンバーらは会の活動の他にも数人のグループに分かれ、他団体と連携し、様々な活動を展開しています。ここでは、同会の活動やメンバーらが関わっている活動を紹介します。 むなかた「水と緑の会」 釣川の再生・復興を目的に1991年に設立 むなかた「水と緑の会」は、「釣川の再生・復興」を目的に平成3年(1991) に設立された市民活動団体です。60人ほど(令和6年5月現在)の会員が、釣川の清掃活動に取り組む他、環境教育活動を実施する「教育部会」、廃油石鹸を作成して使用拡大を目指す「石けん部会」、蛍の幼虫の飼育や放流に取り組む「ホタル部会」、街角の花壇を整備などを通じ緑の保全に取り組む「花と緑部会」、アサギマダラの中継地保全などに取り組む「調査研究部会」、ホームページなどで会の活動を発信する「広報部会」の6つの部会に分かれ、環境分野での教育・保全・啓発活動を行っています。釣川流域の清掃活動「釣川クリーン作戦」を団体設立当初から宗像市とともに主催しています。毎年約2,000人の市民が参加しています。更にさつき松原の海岸清掃「ラブアース・クリーンアップ」を市民や企業に呼び掛け、平成4年度(1992) から継続して実施しています。 釣川の源流から河口までたどり自然と触れ合い環境学習 13小学校28クラス、900人が参加 毎年市内13小学校の4年生(令和5年度:28クラス、900人)を対象にし「水辺教室」を開催。教室では、同会の会員が講師となり、宗像市の水源である釣川の源流から河口まで1日をかけて巡り、水をテーマに生物、自然、水の大切さなど環境について講義。子どもたちは肌で自然と触れ合いながら生物、自然、水の大切さなど環境について学習しています。平成3年(1991) から始まったこの活動も、今年で33年目。延べ2万人を超える子どもたちが参加しています。宮若市との市境付近にある釣川の源流。ここから江口の河口まで18キロを1日をかけてたどります。釣川源流近く。河床の石の形状や水量、生物や植物を観察し記録。釣川の支流・山田川の上流にある「ホタルの里公園」で水辺や水中の生物の話を聞く子どもたち。同公園では、水と緑の会「ホタル部会」のメンバーがゲンジボタルを育てています。 毎夏恒例「磯の生き物観察」 市民学習ネットワークと連携し実施 むなかた「水と緑の会」の福島敏満さんと中石敬二さん、同会の会員やボランティアの学生も運営メンバーも加わり、市民学習ネットワークの講座の一コマとして、毎夏、福津市勝浦浜の東端の海岸で「磯の生き物観察会」を催しています。この観察会は、市民学習ネットワークが誕生した翌年、昭和62年(1987) からスタート。37年続いています。最近は、毎回40組ほどの親子が参加し、干潮時にできる潮溜りで、小魚や海藻を観察。子どもたちは2人の説明を聴きながら、日頃出会うことがない磯の生き物と触れ合う貴重な体験をしています。「親子2代続けで参加している家族もあります。ボランティアで手伝ってくれている大学生や社会人の中には、子どものころ観察会に参加した子もいますよ」と福島さん。このほかにも、大島海洋体験施設うみんぐ大島と連携し、「磯の生き物観察」を行っています。磯辺は小魚や貝など生き物の宝庫。その中には有害な生き物もいます。安全に楽しく観察できるよう注意事項を伝えます。岩の下には何がいる? 観て、触って、感じて、学ぶ。 海洋体験課外授業で環境保全の学習 宗像市と福津市では、平成28 年度から両市の小学5年生を対象に福津市の勝浦浜で毎年「海洋体験課外授業」を開催しています。令和5年度は、46クラス1,600人ほどが参加。課外授業では、ヨットの体験乗船、カヌーの操船、ロープワーク実習、水辺の観察を通して、マリンスポーツに親しみ、海辺の生物やマイクロプラスチックによる海洋汚染の現状を学んでいます。「水辺の観察」は、令和3年度に同会の中石さんが考案したプログラム。波打ち際に生息する生物や砂浜の植物を観察したり、砂に混ざって打ち寄せられたマイクロプラスチックの状況を調べたりし、海を守る環境保全学習を行っています。 砂浜に寄せられた漂着物や生き物を観察。ザルで砂を振るうと粉々になったプラスチックの破片が目につきます。波打ち際の生物を観察。小さなカニや貝を見つけ、動きを観察。 市民グループなどの活動 市内には、むなかた「水と緑の会」のほかにも環境美化・環境保全活動に取り組む市民グループや団体、企業などがあり、釣川河口付近やさつき松原、大島・地島などの海岸で清掃活動を行っています。令和5年度は、海岸清掃に254団体・グループが参加。可燃物3,975袋、不燃物1,033袋を回収しています。 市では環境美化活動ボランティアを募集しています。 さつき松原アダプトプログラム:トヨタ自動車九州株式会社 宗像「Save the Sea」活動 in 宗像市地島:株式会社湖池屋 アダプトプログラム:辛子めんたいこ海千 海のプラゴミが打ち上げ花火に変わるプロジェクト:宗像CSR推進実行委員会 ビーチコーミング の先駆者・石井忠さんその著作は浜辺歩きのバイブルです。 宗像地域の浜に寄せられる漂着物に興味を抱き長年、調査・研究を続けた人がいました。漂着物学会設立発起人の一人で、初代会長を務めた石井忠さん(1937年10月28日から2016年5月30日まで)がその人です。石井さんは、中学、高等学校教諭、九州産業大学非常勤講師、古賀市立歴史資料館館長を務め、その傍ら浜歩きを継続。ビーチコーミングの楽しさや研究の成果を多くの著作にまとめ出版。平成13年(2001) に漂着物学会初代会長に就任、漂着物研究のトップランナーとして活躍。平成の宗像市史編纂事業では、専門委員会委員(民俗)・執筆者として協力を頂いています。市立図書館にある石井さんの著作は以下の通りです。石井さんの著書を読み、浜歩きを楽しんでみませんか。 海の漂着物図録 黒潮からのメッセージ石井忠/宗像ユリックス ビーチコーミングをはじめよう―海辺の漂着物さがし石井忠/木星舎 漂着物事典: 海からのメッセージ石井忠/朝日文庫 漂着物事典石井忠/海鳥社 新編漂着物事典石井忠/海鳥社 漂着物(ヨリモノ)の博物誌石井忠/西日本新聞社 海辺の民俗学石井忠/新潮社 漂着物探検風と潮のローマンス(語り)石井忠・城戸洋/みずのわ出版 このほか、新聞や民間団体などのから依頼を受け、出稿されています。その一つが宗像大社の社報に掲載されています。同社報に昭和52 年から平成28 年まで、漂着物や考古学のエッセイを寄稿されています。これらは、宗像大社のホームページで読むことができます。 https://munakata-taisha.or.jp/shahou(外部リンク先:宗像大社ホームページ) 【宗像大社社報】 宗像大社社報198 号浜の寄物1 (昭和52年6月15日号)から 宗像大社社報233 号浜の寄物 33 (昭和55年5月15日号)まで 宗像大社社報234 号宗像郡考古学散歩1 (昭和55年6月15日号)から 宗像大社社報275 号宗像郡考古学散歩36 (昭和58年11月15日号)まで 宗像大社社報278 号玄海沿岸地名探訪1 (昭和59年2月15日号)から 宗像大社社報294 号玄海沿岸地名探訪14 (昭和60年6月15日号)まで 宗像大社社報296 号続浜の寄物1 (昭和60年8月15日号)から 宗像大社社報657 号続浜の寄物 305 (平成27年12月1日号)まで 宗像大社社報661 号平成28年3月1日号 連載終了のお知らせ 【むなかた電子博物館】 海の道むなかた館と市民ボランティアが協働で運営するインターネット上の博物館「むなかた電子博物館」のホームページに石井忠さんの寄稿を読むことができます。 むなかた電子博物館紀要第3号(外部リンク先:むなかた電子博物館HP) 「漂着物の四十年(玄界漂着譚)」1968年から2010年石井忠 https://munahaku.jp/wp-content/themes/munahaku/img/kiyou/vol03/pdf/040-053.pdf その他ビーチコーミング 関連のリンク先 漂着物学会 九州大学うみつなぎ(九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センタ) むなかた電子博物館「特集水辺の観察」 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 特別研究事業 成果報告書「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群保存活用協議会 石井忠さんのこと 石井 忠(いしい ただし) 1937年10月28日から2016年5月30日(平成28年)昭和12年(1937)福岡県生まれ。昭和36年(1961)國學院大学文学部史学科卒業。中学・高等学校教諭、九州産業大学非常勤講師を経て、平成25年(2013)3月まで古賀市立歴史資料館館長。福岡県文化財保護指導員、福岡市文化財保護審議会委員など歴任。漂着物学会を設立、会長を勤める。1980年『漂着物の博物誌』で樋口清之賞、1983 年日本デザイン会議地域文化デザイン賞、1998年福岡県文化賞受賞。 平成28年5月30日没