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祈りの原風景 「沖ノ島の豊かな自然」展
2022年11月8日更新知る
- 禁忌によって守られた 祈りの原風景
- 展示概要
- 意外と涼しい沖ノ島。 年平均湿度は80%と多湿。
- 謎のベールに包まれた沖ノ島の昆虫。 今後の調査に注目。
- 30種類の陸生貝類を確認。 沖ノ島固有種が見つかる可能性大。
- 島の爬虫類はニホントカゲだけ。 ヘビはいません。
- 哺乳類はクマネズミとドブネズミの2種。 オキノシマジネズミは絶滅か。
- 鳥たちは、沖ノ島と小屋島でのすみ分け。不思議ですね。
- 沖ノ島には絶滅危惧種の植物がたくさん
- 沖ノ島の原始林は、大正15年(1926)に国の天然記念物に指定されています。
- 100年後、今とは異なる生物が生息繁殖しているのか。
禁忌によって守られた
祈りの原風景
自然崇拝の原点ともいえる島内の自然に焦点を当て展示
海の道むなかた館では、世界遺産登録5周年と開館10周年を記念し「祈りの原風景『沖ノ島の豊かな自然』展」を12月28日まで開催。会期中は、特別展示室を中心に、島内で生息繁殖する動植物などの写真と映像、標本を展示。古代から続く祈りの原風景を作り出している島内の自然に焦点を当て紹介しています。そこで、この企画展を開催した海の道むなかた館の岡崇(おか・たかし)学芸員に話を聞いてきました。
展示概要
- 特別展示室は「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」を動画で紹介する大型スクリーン(7m×18m)や宗像市内で発掘された遺物や民俗資料を展示する常設展示室の奥にあります。特別展示室では、時計周りに沖ノ島で生息繁殖する昆虫、貝類、爬虫類両生類、地質、哺乳類、鳥類、植物の順に紹介しています。また、エントランスホールから宗像市立図書館深田分館への連絡通路に9月現在鳥類の写真を展示しています。
- まず、沖ノ島の自然環境、次いで、動植物について説明します。
- 特別展示室展示風景
- 自然環境(気候)
意外と涼しい沖ノ島。
年平均湿度は80%と多湿。
- 沖ノ島は対馬海流の影響で、九州本土と比べ、温暖であるといわれていますが、2021年に沖ノ島祭祀遺跡内に設置したデータロガの計測では、最高気温27.5度、最低気温-2度でした。夏は30度を超えることはなく、九州本土よりむしろ涼しく、冬は、季節風の影響を直接受け、マイナスを記録することがわかりました。島内の湿度は、夏季はほぼ90%以上を記録し、100%を継続する日が数週間続きました。冬場は、1日の中で乾湿の振れ幅が大きいものの50%を下回る記録はほとんど見当たらず、年間の平均湿度は80%という多湿な環境でした。
- 自然環境(地質)
日本海の生い立ちを考える上で重要な地質。
- 沖ノ島の地質は、対州層群(注1)とその上に堆積した白色凝灰岩(はくしょくぎょうかいがん)(注2)の2種類から形成されています。対州層群は、沖ノ島の西側だけに地上に露出しています。
- 注 1=対州層群とは、沖ノ島から対馬にかけて見られる堆積層で日本海の生い立ちを考える上で重要な地質です。
- 注 2=白色凝灰岩とは、白色からやや緑がかった火山由来の堆積物です。
- 対州層群の岩質は、黒灰質の泥質で薄く堆積しています。このことから湖のような、流れのほとんどない穏やかな水辺で堆積したものと考えられています。この堆積層の断面が本の頁(ページ)のように見えることから頁岩(けつがん)と呼ばれています。
- 海底の泥や砂が波の跡を残し、化石となったものを漣痕化石(れんこんかせき)といいます。地殻変動で、海だったところが陸になり現れたものです。沖ノ島から西方に約75km離れた対馬にも同様の地層が見られます。対馬ではその地層から採取した石を材料とし対馬硯(つしますずり)が作られています。
- 沖ノ島の大部分と小屋島などの岩礁は、火山堆積物からなる白色の凝灰岩で形成されています。沖ノ島の古代祭祀の場は、この白色凝灰岩の巨石の転石が舞台となっています。島の北側でも凝灰岩の堆積の跡が見られます。また、小屋島ではスコリアと呼ばれる多孔質(たこうしつ)の火山礫(れき)の集積を観察することができます。
- 沖の島漁港の東側では、頁岩を含んだ凝灰岩が見られます。これは、マグマが噴出した際に、基底層である対州層群の頁岩を巻き込んで、凝灰岩として再び堆積したものと考えられます。
- 頁岩
- 沖ノ島の堆積層
- 昆虫
謎のベールに包まれた沖ノ島の昆虫。
今後の調査に注目。
- 沖ノ島の昆虫類は、入島の制限に加え、季節によって出現する種類の変化や関心が高い分野に限定した調査が先行する傾向にあり、これまで、1年を通して島内をしらみつぶしに調べる調査は進んでいません。最も調査が進んだ種は、表面が堅いカミキリムシなどの甲虫目(こうちゅうもく)で、次いで多くの人が魅了されるチョウ目の研究です。まだまだ、謎のベールに包まれた分野です。
- 沖ツ津宮社殿前では6月の限られた期間だけヒメボタルが確認されています。ホタルは清流に生息するイメージですが、沖ノ島のホタルは陸生の貝類が分布する湿った場所にいます。2022年春の調査では、島の北側にも分布していることが確認されました。
- ヒメボタル(2022年5月26日:沖ノ島沖津宮社殿前で撮影)
- 貝類
30種類の陸生貝類を確認。
沖ノ島固有種が見つかる可能性大。
- 陸生貝類の本格的な調査は実施されていないにもかかわらず、これまで30種が見つかっています。ツクシマイマイやオキナワウスカワマイマイは参道沿いに生えている植物の葉などに多く生息しています。また、大麻畑の近くの小川ではカワニナの生息が確認されています。今後、調査が進むと、沖ノ島の固有種が見つかる可能性が高いといわれています。
- 爬虫類
島の爬虫類はニホントカゲだけ。
ヘビはいません。
- 生息する爬虫類(はちゅうるい)はニホントカゲだけが確認されています。その数は多く、参道を歩いていると、あちらこちらで見かけます。アオダイショウやマムシなどのヘビ類は全く確認されていません。オオミズナキドリなどが襲われる心配はありません。
- 哺乳類
哺乳類はクマネズミとドブネズミの2種。
オキノシマジネズミは絶滅か。
- 沖ノ島で確認されている哺乳類は、クマネズミとドブネズミの2種類です。過去にはネコが放たれ野生化したことがあり、一時的にネズミが減ったようですが、その後、ネコは駆除され、再びネズミが増加しているといわれています。江戸時代に作られた書物「筑前国続風土記」には「只鼠多(ただねずみおお)し」と記され、昔から沖ノ島にはネズミがいたようです。
- 約10年前に実施された福岡県絶滅危惧種(RDB)の調査では「沖の島漁港」東側の湧水池でアブラコウモリが捕獲されましたが、今年の調査(2022年6月15~17日)ではコウモリの姿、痕跡は確認することができませんでした。
- (オキノシマジネズミ)
- オキノシマジネズミは、1966年の報告では3体の雌の死骸が採取された記録がありますが、ここ数十年の調査では全く確認されていないことから、今では絶滅した可能性が高いと考えられてます。1955年に沖ノ島で初めて採取されたネズミは、当時オキノシマコジネズミと命名され、タイプ標本として剥製が作られました。その後、見つかった3体の顎(あご)の特徴からコジネズミよりジネズミに近い仲間であることが確認されました。将来、DNA調査などが進めば、九州本土にもいる一般的なジネズミの仲間なのか、オキノシマジネズミとしての固有の亜種なのかが判別される日がくるのではないでしょうか。
- ジネズミは、「ネズミ」の名前がついていますが、モグラの仲間です。しかし、モグラの仲間ですが、地中で生活せずに地上で生活し、モグラのような発達した前足は持っていません。オキノシマジネズミは、草原地帯の地表で虫やミミズを求め走りまわっていたようです。
- クマネズミ
- オキノシマジネズミ(1955年採集)
- 鳥類
鳥たちは、沖ノ島と小屋島でのすみ分け。不思議ですね。
- 沖ノ島の鳥類といえば、市の鳥でもある「オオミズナギドリ」が知られていますが、本島や周辺の岩礁には、さまざまな鳥類が生息繁殖しています。中には絶滅が危惧されている貴重な種もいます。北九州市立自然史・歴史博物館の協力でオオミズナキドリやカンムリウミスズメ、ヒメクロウミツバメ、コノハズク(フクロウ目)、カラスバトなどの剥製(はくせい)を展示しています。
- 同じ鳥類でも、沖ノ島と小屋島では生息する鳥の種類が異なります。オオミズナキドリは沖ノ島本島に生息し主に夜間、巣作り、を行っています。ところが、カンムリウミスズメやヒメクロウミツバメは、主に小屋島で巣作りをしています。なぜすみ分けができるのでしょうか。
- 1987年、小屋島にネズミ類(ドブネズミ、クマネズミ)が侵入し、カンムリウミスズメとヒメクロウミツバメの卵やヒナが襲われ壊滅的な状態となりました。その後、ネズミ類は駆除されましたが、以前のような生育数には戻っていないようです。オオミズナギドリはネズミ類と共存し繁殖することが可能ですが、カンムリウミスズメとヒメクロウミツバメはネズミ類がたくさんいる島では繁殖することができないのです。また、小屋島は土の堆積がほとんどない岩場ですから、オオミズナギドリが入る大きな巣穴を掘ることができないことも原因の1つかもしれません。
- リュウキュウコノハズク
- オオミズナキドリ
- オオミズナキドリとその卵
- カンムリウミスズメ
- 植物
沖ノ島には絶滅危惧種の植物がたくさん
- 今回展示している植物は、1962年から1963年にかけて調査が行われ、標本として宗像大社神宝館に保管されているもののなかから特に貴重なものを借用しています。
- 例えばオオユリワサビは、学名をEutrema okinosimenseといい、沖ノ島の名前が記されているように沖ノ島においてはじめて発見された植物です。その後東北地方や北陸地方でも同種が発見されました。ところが、その後、当の沖ノ島では絶滅したようで、発見地である大麻畑では今も生育を確認することができません。オオユリワサビ同様、コバノイラクサやタチバナ、ハイビャクシンもまたその当時沖ノ島に生育していた植物ですが、現在確認することができません。
- 逆にハマムギは、2011年の福岡県レッドデータブックでは、絶滅とされていましたがその後沖ノ島で再度確認され、大島でも生育が確認されました。
- ヒゼンマユミは、福岡県の絶滅危惧種に指定されていますが、沖ノ島では普通に生育しています。
- 特別展示室展示風景
- イワレンゲ(2011年8月3日:沖ノ島で撮影)
- ビロウ(2011年8月2日:沖ノ島で撮影)
- オオタニワタリ(沖ノ島で撮影)
沖ノ島の原始林は、大正15年(1926)に国の天然記念物に指定されています。
- 島の周囲約50kmには大きな陸地がなく、対馬海流の影響、さらには禁忌によって守られてきた沖ノ島には、自生の北限とされる植物や絶滅が危惧されている種など貴重な植物が生育しています。
- 沖ノ島の全域は宗像大社沖津宮の境内に属し、古来から斧(おの)を入れたことがのないうっそうとした原始林で覆われています。
- 高木はタブノキが多く、アオガシ、コクテンギ(沖ノ島では現在生育が確認されておらずマサキの間違いではないかとの指摘があります)、ナタオレノキ、ネズミモチ、ヒゼンマユミ、ホルトノキなどがあり、低木はヤツデ、マンリョウなどが生育。フウトウガズラ、テリハツルウメモドキ、ミヤコジマツツジラフジなどの蔓(つる)性植物も見かけます。草本には、ノシラン、ヤブラン、ムサシアブミ、オニヤブソテツなどが繁殖しています。また、やや湿った森林内の樹木や岩陰などでは、シダ植物オオタニワタリが自生し、島の東北端に近い尾根にはヤシ科の常緑高木であるビロウが4株見られます。共に分布の北限地として意義深いものです。沖ノ島の原始林は、大正15年(1926)国指定天然記念物となっています。
- 今回の展示では、1963年の調査で採取された標本(宗像大社神宝館所蔵標本)を見ることができます。このほか、豊富な写真を使い紹介しています。また、沖ノ島産ではありませんが、福岡県の絶滅危惧I Aに分類されているイワレンゲの実物を間近で見ることができます。
100年後、今とは異なる生物が生息繁殖しているのか。
- 孤島、沖ノ島。その周囲には生物が安定して生息できる大きな陸地はありません。このため、島の生物は、長距離移動ができるもの、海流に乗って運ばれた漂着物の中や鳥などの糞に紛れてきたもの、あるいは氷河期に大陸から渡ってきたものが取り残され、生き続けているものなどが考えられます。これまでに上陸できた生物のなかにも自然環境や天敵などが原因で適応できず絶滅したもの、船で入島した際に人や荷物に付着し、予期せず運ばれてきたもが、島の生態系を脅かすこともあったでしょう。現在、目にすることができる沖ノ島の生物は、このような危機を乗り越え、奇跡的に適応できたものだけということになります。今後も島内の生物は、温暖化などの気候変動に伴って進化や絶滅を繰り返し、100年後は、今とは異なる生物が生息繁殖しているかもしれません。
- 資料
- 沖ノ島の地図。島内の名称
- 沖ノ島の禁忌
- 島で見聞きしたことを漏らしてはならない
- 島にあるものは一木一草一石たりとも持ち帰ってはならない
- 神職といえども禊なしでは上陸できない
- 男女とわず一般人は決して上陸できない
- 沖ノ島ではどのような禁忌
- 沖ノ島の自然を学べる(外部リンク)
- 世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群保存活用協議会のHPには沖ノ島関連の情報が満載です。ご利用ください。
- 調査報告書
- 沖ノ島研究第1号(平成27年3月)発行:「宗像・沖ノ島と関連遺産群」世界遺産推進会議
https://www.munakata-archives.asia/Dat/bunken/0000000020_01.pdf
- (外部サイトに移動します)
- 沖ノ島の音
- 世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群デジタルアーカイブ音声
- 沖ノ島の「音
https://www.munakata-archives.asia/frmSearchAudioList.aspx
- (外部サイトに移動します)
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